3月13,14日に長崎大学で開催されたThe 1st International Symposium on Pain Control and Research in Nagasakiに参加してきました。
発表された研究内容については特にここでは取り上げませんが、この分野の国内外の著名な研究者がLectureを行うという形式であったこともあり、「痛み」研究のオーバービューと聴く機会として非常に有益であったと思います。
また、脳科学研究の中での「痛み」研究を考えるいい機会にもなったので、まだ考えがまとまっていませんが、整理のためにメモ書きしておきます。
もし可能であればいろいろな立場の方のご意見もうかがえれば幸いです。
「痛み」研究に関する痛み研究者以外の脳研究者や一般の方の意識は、単純に急性の痛みということに目がいってしまい、脳科学のおもしろいテーマであるというとらえ方が弱い感じがします。
し かし、「痛み」研究を行っている研究者の関心の多くは慢性疼痛で、そこには細胞レベルでの応答性の変化や回路レベルでの可塑性など、比較的(高次機能 と比べて)シンプルに見える特定の回路におけるダイナミックな変化に対して、関連する分子レベルでの解析も可能な、魅力的な領域としての可能性があるのではないかと思います。
もちろん、多くの疾患と関連しQOLに大きく影響する「痛み」を抑えることは、社会的にも強い要求事項でもあります。
そういったことから米国では、Decade of the Brainのあと2001-2010をDecade of the Painと位置づけています。
このように、科学的にも魅力的で社会的にも重要と考えられる「痛み」の研究領域ではありますが、今ひとつ盛り上がりがないというのも事実ではないでしょうか。
日本においては特にそうかと初めは思っていましたが、どうも単に日本だけの状況でもないような気がします。
そこには、「痛み」は定量化が困難な現象であるということと、「痛み」研究以外の専門家が参入してくるのに用語や概念のハードルが高いという事があるのではないでしょうか。
「痛み」の定量化には行動として計測する従来の方法に加えて、最近は脳機能イメージングを用いて「痛み」認知の脳活動を捉えようという進展が見られています。
一方、他領域・分野からの参入の難さについては、あまり変わっていないかなというのが率直な感想です。
私自身は、たまたま「痛み」研究を活発に行っている今回のシンポジウムの主催者でもある長崎大学の植田研に籍を置いていたこともあり、比較的痛み研究には親和性のある方ですが、今回の講演を聴いていても、議論となっている現象の説明に「痛み」研究特有の表現が非常に多く、講義形式であっても分野外の人には取っつきにくいなという印象を受けました。もちろん対象者が違うといってしまえばそうですが。
この状況をどうすればよいか具体的にははっきりしませんが、もう少し一般の神経科学との接点を増やせるように、ある意味「翻訳」することが必要ではないだろうか?と思います。
上にも取り上げたように、「痛み」研究は中枢のシステムレベルでの可塑性を分子、細胞、回路から積み上げて扱うことができる魅力的な領域であり、これまで「痛み」を対象としていない分子、細胞、回路の一般的な機能に関心がある多くの脳科学者がもっと取り上げても良い系であると思いますし、それらを統合する様な計算論などの数理、情報系の研究者ももっと参入することで、大きく展開できる領域ではないでしょうか。
そのためにも他分野の研究者が「痛み」研究に参入することを加速できる取組が活発になることを期待します。
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