2009年2月25日水曜日

パブコメ:脳科学の長期展望04

 「Ⅱ-2.脳科学研究推進についての考え方」では、基礎研究、基盤技術開発、社会への貢献の3つの軸と学際的・融合的研究環境という視点でまとめられている。この基礎研究の必要性について書かれている箇所には、多様で継続的かつ重厚に進めることが必要不可欠であると言うことが述べられているが、なぜそうなのかについての理由が書かれていない。あまり熟慮せずに(理由を示さずに)書かれているか、あるいはよく考えたために(理由が)書けなかったかのどちらかであろう。この答申に限らずこの点についてちゃんと考察しているものはあまり記憶にありません。皆さん当然と思っている節もある。

 多様な研究の必要性は、今後もこのブログの大きなテーマになると思いますので、答申と少し離れることになるかもしれませんが、少し突っ込んでコメントすることにします。

 多様な研究の必要性は、多くの研究者が考えているように基礎研究にとって非常に重要なポイントであると私も考えています。中間とりまとめでは「将来のイノベーションにつながる・・・」と言う文句が入っていますが、そのイノベーションは一体どこから出てくるのかが予め分からないという宿命があり、そのために特定のテーマや見方に偏らない多様性が必要であると言うロジックがよく用いられています。
 しかしよく考えると「どこから出てくるか分からない」「投資資源は有限で限られた領域、課題に配分することになる」ということなら、恣意的に決めた(投資する側が納得する)領域や課題に投資しても、ランダムにばらまいても期待される効果は変わらないということになります。しかし実はそうではないと言うのが私の考えです。やはり似たような研究領域や課題からは似たような成果が出てくる可能性が高くなり、成果(イノベーションのネタ)の重複は少ない方が良いので、異なるものを増やすという多様性は重要であると考えられます。一方、異なる領域や課題それぞれが隔絶しているのではなく相互作用する仕組みがあれば、1+1が2以上になる投資の相乗作用が期待できます。この多様性の確保と相互の連携を促進することを念頭に置くことが科学技術政策を設計する上で重要であると考えています。サイエンスポータルのオピニオンでふれた「重層的」な研究開発の振興と言う考えはそこから来ているものです。
 だからこそ学際的・融合的な領域という観点が重要で、異なるものが相互に関連し合うこと(多様性とその連結)がなぜ政策的に重要なのかということを説明できるのではないかと考えています。現実には、省庁やプロジェクト毎の縦割り「整理学」が政策決定時に最重要視されているようで、そうではなくなるべく大きな枠組みからパッケージとして考えて設計していく必要があることをどこかで訴えていかなければならないと思っています。そういう意味では、この答申も単にコロッとした「脳科学」に閉じることなく、ある意味意図的に重複を作ってでも様々な研究領域や課題と連結させていくことを目指していただければと個人的には思っています。

パブコメ:脳科学の長期展望03

バタバタしているうちに答申案の中身に入る前で投稿が止まってしまい、もう明日パブコメの〆切となってしまいました。
時間的にもうたくさん盛り込むことは出来ませんし、また個別専門的な箇所は皆さんから意見が出てくると思いますので、脳科学専門家とは違った意見、脳科学コミュニティー内の批判的な意見とも違うものを意図して、まず大括りなところを順次コメントすることにします。

コメント1:脳科学のポジショニングと方向性
これにについて答申案の見解がはっきりしていないのではないか?
社会からの要求は何か、それに対して何がどこまで分かって何が分からないのか、と言うことをまず位置づけることが必要であろう。
そこを明らかにするために、「1.現代社会における脳科学研究の意義と重要性」や「2.これまでの脳科学研究の主な成果」が書かれている必要があるが、今の中間取りまとめでは、出来た成果とその延長線上のことが主に取り上げられており、本当はこれから何をしなければならないのかということ(研究の目標のようなもの)が実のところよく見えてこないつくりになっている。制度の足らないところはよく書かれているようですが。
何が分かっていないのかと言うことをよりはっきりさせるべきであると言うことです。

コメント2:脳科学帝国主義的書きぶりが散見される
全体を通して「脳科学のための脳科学」という印象を強く受けます。
これでは、本答申のキモである融合的、学際的な脳科学の展開は望めないのではないかと思われます。

具体的には例えば、
「Ⅱ−1.脳科学研究が目指すべき方向性」で「脳を理解することは、生命科学的知見に立脚しながら、心を備えた社会的存在として人間を総合的に理解することである。」というのはいかがなものか。「社会的存在として人間を総合的に理解するためには、生命科学的知見に立脚した脳の理解が欠かせない。」と言う方が良いと思います。
「精神・神経疾患への対処について社会から期待が高まっている。」「多数の研究領域が未だ萌芽的な段階に留まっている。」はその通りだと思います。ただ、その後「自然科学としての基盤が脆弱なまま、その技術が拙速に社会へ導入されることがないよう、・・・」の下りは微妙なところです。社会貢献を見据えて基礎研究をいっそう強化することは当然であると思いますが、一方で、社会への導入については自然科学としての基盤が脆弱かどうかは関係なく、その技術が安全で効果があるかどうか倫理的観点も踏まえて導入すべきものは導入していくべきであると考えます。極端な話、今ある様々な(精神・神経疾患以外も含めた)治療法、治療薬に対して、どれだけの自然科学的な基盤があるのかと言う点は甚だ疑問であると思っています。まあ「拙速」という言葉で担保しているような文章ではありますが。

また別の箇所「(1)先端ライフサイエンスとしての脳科学の発展」では、
脳科学研究から得られた新しい生命現象やその基礎となるメカニズムが他分野の牽引力と主張していますが、果たしてそうか?
どちらかというと、他の分野で得られた新しい生命現象やその基礎となるメカニズムが、ライフサイエンスで解明したい未だ広大なフロンティアが残っている脳科学に、今まさに展開できつつある、と言うことを主張すべきではないか?

「(2)異分野融合による新しい学問領域の創出」では、自然科学の対立概念として人文・社会科学がとらえられてきた、というのも表現に問題があるように思います。「対立概念」ではなく「異なる手法を用いてきた」といったところか?
また、「脳科学の大きな目標の一つは「人間存在の理解」にあり、」なども脳科学のための脳科学推進という意識が見え隠れする。
本来、社会が求めることとして「人間存在の理解」があり、その問いに対してこれまで人文・社会科学で進められてきたものに加えて、脳科学が新たな展開をもたらすことが出来るようになってきた、というロジックが正当であるように思われる。

このような「脳科学のための脳科学推進」では、諮問の内容に対しての答申とはいえない。

「脳科学だけではなぜ社会の要求に応えることが出来ないのか」という視点も必要。答申内容には脳科学がすばらしいという見方ばかりが目に付き、それでは融合的、学際的なものは、よく考えるといらないのではないかとでもいえる書きようになっている。

脳科学の専門家が執筆することの重要性は理解するが、諮問にあるより社会のためという観点での脳科学のポジショニングが出来ていないようなので、この点は答申としてよりブラッシュアップしていただいた方が良いと考えます。

2009年2月20日金曜日

パブコメ:脳科学の長期展望02

「長期的展望に立つ脳科学の基本的構想及び推進方策について」(第1次答申案(中間取りまとめ))とは何か?
この文書は、脳科学の発展性と社会的な重要性を念頭に、今後長期的な研究の推進をどのようにするべきかを問われた文部科学大臣からの諮問に対する答申の途中の案と言うことになります。
この答申案のとりまとめは、科学技術・学術審議会によるものとなっていますが、実際に内容を検討しているのは、その下に設置された脳科学委員会及びその調査検討作業部会が行っています。

ここでの協議内容につては、HP上に議事録や資料が提示されていて、基本的にオープンになっています。
また、議事録だけでは分からない雰囲気のようなものは、サイエンスポータルのレポートとしていくつかの会の内容が書かれているので、参考になるかと思います。

まず始めに、この答申案について理解しておくべきなのは、まず文部科学大臣の諮問があるという点だと思います。
今後脳科学研究を進めるべきかどうかという点はすでに済んでいる話であって、諮問の理由として「脳科学の研究開発を重点的に進め、成果を社会に還元する必要がある。」と明確に説明されている。
ただし、そこに明記されているように、長期的に見て「成果を社会に還元する必要がある」とも指摘されています。
ここで期待されている成果は、健康に関わる問題解決などもありますが、一方で、「真に人間を理解するための科学的基盤を与え、心の理解や人類社会の調和と発展につながる科学的価値の高い成果」も期待されています。
そういう理解の上に立って、では国としてどのように取り組むべきかを専門家が議論して答えなさい、というわけです。

社会に還元することと言うと、ともすれば短期的な応用面での成果が取りだたされかねないが、脳科学を考えるときに、そのような短期の成果とともに長期的な学術研究の重要性が当初より意識されているので、脳科学委員会の設置に当たって「脳科学研究を戦略的に推進するための体制整備の在り方のほか、人文・社会科学との融合、さらには大学等における研究体制等を含めた長期的展望に立つ脳科学研究の基本的構想及び推進方策の検討を行うことから、研究計画・評価分科会と学術分科会学術研究推進部会との合同設置とする。」という、特異な形を取っていることも、この答申案を考える上で理解しておいた方が良いと思います。

従って、今後更に議論していく上では、トップダウンの戦略的な視点と学術研究のボトムアップの視点、短期から長期的な視野をバランスよく捉えることが関係者に求められていて、ともすると単純に「基礎研究は重要」と言い放ってしまうだけになりがちであるが、全体として脳科学を大きく進めていこう、新しく変えていこうという流れを遮らない議論が出来てほしいと思います。

まず前提条件の話だけで長くなりましたが、次は中身に入っていく予定です。

2009年2月19日木曜日

パブコメ:脳科学の長期展望01

Googleニュースから脳科学関連のものを表示する欄を作りました。
早速、ヒットしていたのが、現在パブコメ募集中の「長期的展望に立つ脳科学の基本的構想及び推進方策について」(第1次答申案(中間取りまとめ))でした。
科学技術・学術審議会から出されたこの案は、いろいろな意味で重要なので、関係する多くの方が、賛成やご批判いずれでも構わないですが、建設的なコメントが出されてより良いものになればと思います。

この答申は、主に科学技術・学術審議会の下に設置された脳科学委員会で議論されてきたもので、作業部会も含めてずいぶん傍聴させていただきました。
その前の局長懇談会もほとんど傍聴させていただいたので、全体の流れは理解しているつもりですが、かなりびっしりと書かれているので、今週末はゆっくり読み返して考えたいと思っています。
ちなみにパブコメの〆切は一週間後です。

それまで当面この答申案について、自分の整理のために、ここでコメントを綴っていくことにします。と言ってもまだこのブログはほとんど誰も見ていないようなので、独り言をつぶやくことにします。

2009年2月18日水曜日

「ネット上で気になったコンテンツ」欄を作りました。

Googleリーダーで設定しているネット上のコンテンツで、気になったものを載せる欄を作りました。
何を載せるかは、まったくそのときの気分ですが、論文とかはそれぞれの専門の方がチェックしていると思うので、ここにはあまり載せない予定です。
また、自分でちゃんと中身を見ているとも限りません。
これをネタに何かコメントをいただけたら、とも思っています。

2009年2月17日火曜日

まずは自己紹介から。

このブログでは、研究のトピックスから科学技術政策といったことまでの研究に関わる諸々のことを取り上げる予定です。
特に、脳神経科学が中心となるかと思いますが、それ以外も幅広く取り上げていきたいと思っています。

といって何から始めればよいかよく分かりませんので、まずは自己紹介から。

私のキャリアは割と変わっていて、また、かなりいろいろなところを移ってきました。
元々大学では、生物学科で研究室は分子生理学教室。
もう25年前になりますが、細胞内の酵素活性のキネティックに手を出して、今から思えばシステム生物学的なところでもあったように思えます。
昔の酵素のキネティックス研究と昨今のシステム生物学は似たところがあり、同じような危うさも持っていると常々思っています。
これはまた、そのうち話題にするでしょう。

と、このペースでは話は終わらないので、簡単に略歴(遍歴)を書いておきます。
1986年大阪大学理学部生物学科卒
91年同理学研究科生理学専攻修了(理学博士)
91年三菱化学生命科学研究所特別研究員
93年早稲田大学人間総 合研究センター助手
97年長崎大学薬学部助教授
04年科学技術振興機構研究開発戦略センターフェロー
08年自然科学研究機構生理学研究所特任教授

博士課程の途中から2年間は三菱化学生命科学研究所(もうじき無くなってしまいます)で特別研究生として実際には研究を行っていました。
国立大学から、株式会社(一応)、私立大学、国立大学、独法(プログラムオフィサー)、大学共同利用機関法人と移ってきたことになります。

一番大きな転換期は、アカデミアから科学技術政策の企画・立案の世界に入ってきたことでしょう。
こういったキャリアですので、多少は人とも違ったコメントを残せるのではと思っています。
これから、すこしづつそのあたりを書いていきますので、よろしくお願いします。

2009年2月7日土曜日

非公開で、まずはメモ書きとしてはじめるとしよう。