2009年9月29日火曜日

第5回基本計画特別委員会:研究評価

前回の委員会での主要議題(研究評価、研究資金制度、社会との連携)について少し詳細にコメントしたいと思います。

まず研究評価ですが、その意義として
1.人材育成
2.研究コミュニティーの活性化
3.社会への説明責任
があげられている。

いずれもポジティブ指向な表現で、選別というニュアンスではない。少なくとも表現の上ではそうなっています。

それを実現するための基本的考え方として、
1.目的に応じた評価システムの再構築
2.階層構造と階層間の関係が明確化された評価システム群の形成
3.一貫性のある評価とマネジメントの実施
が示されています。

1は、評価の労力も考えようといった、評価に関わる様々な主体者を意識してシステムを再構築しようと言う趣旨のよう。
3は、事前、中間、事後評価の連続性という事。
これはそれなりにすぐ分かる話ですが、2の意味はちょっと分かりにくい。しかし今回の肝でもあるようだ。

この階層とは、政策ー施策ープログラム・制度ー研究開発課題(プロジェクト)を意味するらしい。
従来はともすると課題レベルの評価のウエイトが大きくなっていたのを施策ープログラム・制度レベルをより重視しようと言うことのようである。
個々の課題がどうであったという事で個人を選別するというのではなく、それらの成果の評価からプログラム・制度やその元となった施策が適切であったか、今後どう変えるべきであるかというレベルでの評価をより充実させようと言うことだと思われる。

その結果、最終的には国の政策レベルでの本来の目的実現により有効な施策ープログラムを構築したいということのようです。

こうした制度設計を述べている中でちらちらと目に付くのは、不確実性が高く長期的な視点が必要な研究、学術研究の多くがそれに当たると思うが、そういった研究への配慮、意識が強く出ている点があります。
「当初の目標達成に失敗しても予期せざる波及効果に大きな意味があるかを積極的に評価」といった文言にそういった姿勢がよく現れている。

一方で、社会的課題解決のための研究に対しては、目的達成への道筋や必要技術群の明確化、といった視点で明確に評価することも当然述べられている。

いずれにしてもより上位にある目的をどう達成するのかという観点が強く打ち出されている点は、ポジティブ指向でよいと思います。

これを実現するためには、「研究開発評価に係わる専門人材の育成」が上げられているが、委員会での議論の中で、課題評価についてはこれまでのピュアレビューシステムなどの実績もあり、科学技術の専門家がその役割を担えるが、より上位のプログラム・制度や施策レベルでの評価が出来る人材はそういったこれまでの評価者とは異なり、ほとんどいないのではないかという意見が出ていた。

この意見は全くその通りだと思う。

実際にはこういったレベルでの役割を担う人材として、プログラムディレクター(PD)やプログラムオフィサー(PO)といったポジションが期待されるのであるが、日本においてはまだそういう意味でのPD、POはほとんどいないであろうし、また育成できる組織もまだ無いと言うのが現実でしょう。

私の持論の一つに、米国ではPD、PO制度が50年ほどの実績があり、その中で充実したシステムが出来てきたのに対して、日本ではまだ10年にも満たない。実際には未だ形式的なシステムでもあるとも言える状態で、これを米国の半分の期間の25年で現在の米国相当の(同じではない)システムに出来れば御の字ではないか、というものがあります。米国などの先行事例があるので、全く初めから構築するよりは早く出来てほしいので25年とか言っていますが、かなり適当な数字ではあります。

今回施策レベルでの評価の充実ということが取り上げられているのは非常に重要な点ですが、第4期の基本計画内(平成23年度から27年度)でこれを実現できると考えるのはかなり楽観的であって、より長期的な展望としてそうしたシステムを実現するために次の4期でどうするのかと言う議論に掘り下げていただければ良いなあと思いました。

とりあえず今回はここまで。

2009年9月14日月曜日

第5回基本計画特別委員会を傍聴して

金曜日12日に文科省の基本計画特別委員会を傍聴してきました。

今回は評価と研究費配分に関する議論を中心に進められました。
評価に関しては、個々の課題評価のことを多くの研究者は意識してしまうと思いますが、委員会での評価の議論は施策、プログラムレベルでの評価に重点が置かれていて、評価の階層構造の再認識とその階層間を繋ぐ、下の階層から上位の階層にその結果を反映させる制度設計について議論が行われていました。

また、そうした評価に対する議論の背景の一つには評価疲れと言う問題点も意識されていると思われます。これは研究者が研究に集中出来る環境を4期の基本計画ではより強く打ち出そうとしていること(私見)とも関係しているように思いました。

評価の階層性を明確にし、より上位のプログラム、施策、政策の再検討に結びつけるというのは、ある意味以前からも言われていることですが、より具体的に見えてくると大きく科学技術の振興自身が変わってくると期待されます。

教育研究費配分については特定の大学への集中の度合いが日本では大きいことがデータとして示されたのは興味深かったです。
教育研究費獲得額トップから獲得額が10%までに減少する程度を日米で比較していて、米国の方が減衰が(はるかに)ゆっくりだというものです。

このデータを単に一面的に議論することはできないという点は、委員会でも何人もの委員の方から指摘されていました。
集中すべきものと基盤的な研究費をどう配分するかという議論と直接関わってくるからです。
前回までの委員会でも基盤的な研究費(多くは運営費交付金を指すものと思われます)重視の意見が多かったと思いますが、今回委員長の野依先生が、運営費交付金1%減阻止ではなく、運営費交付金倍増提案をされていたのは、いろいろな意味で野依先生らしいなと思いました。

これら研究費の制度については、PO、PDの話が頻繁に出てきていましたが、次の論点も含めて個人的には多くは肯定できるけれど、もう一つ議論できていないところがあるなと思いました。これについてはまた後日。

最後は科学技術と社会の関わりに関する議論でした。
科学技術コミュニケーションを主な話となっていて、科学技術コミュニケーションにより力を入れていくべきという事ではほとんど全会一致でなかったかと思います。
また、特に科学技術を社会に伝えるというだけではなく、科学技術政策に社会からフィードバックするためにも科学技術コミュニケーターが必要であるという方向性であったように思います。
この役割、じつはPO、PDの話とも深く絡んで来ると思っています。

どの内容も一言二言では足りない論点があるので、今後ボチボチここに書いていきたいと思います。
まずは全体のご紹介まで。

しかし文科省の第2講堂は音響が悪く、発言がよく聞き取れないところがたたありました。
もうちょっとなんとかならないものでしょうかね。
資料のホームページへのUPも、他の委員会より遅いような気もしますね。

2009年9月10日木曜日

明日、基本計画特別委員会を傍聴しに行きます。

明日11日は、昨日ちらっと書きました文部科学省の第5回基本計画特別委員会(第4期科学技術基本計画)を傍聴しに行く予定です。

科学技術基本計画といってもぴんと来ない方もいるかもしれません。
現在は、第3期科学技術計画期間中(平成18年度から平成22年度までの5年間)で、第4期基本計画は、平成23年3月に閣議決定をすることが想定されています。
この第3期の説明が文部科学省のHPに書いていますが、 科学技術基本法の規定に基づき、政府は、科学技術の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るためにこの計画を決定した、とあります。

「科学技術基本計画は、今後10年間程度を見通した5年間の科学技術政策を具体化するものとして策定するもの」であり、よく耳にする重点4分野(ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料)などというのも、この基本計画が元になって進められています。
昨今のイノベーションの重視もこの基本計画が根っこにあります。
こうした基本的なコンセプトとともに、より具体的な推進すべき研究領域や、人材育成の方策などが盛り込まれ、国における様々な科学技術政策の根拠となっているもので、最終的には個々のファンディングや大学の方向性に大きく関わってくるものです。

この基本計画自身は内閣府の総合科学技術会議で議論され、その案が最終的に閣議決定されます。
なのに文部科学省でその前に特別委員会を設置して議論を進めているのはいろいろと理由があるのでしょうが、一つには科学技術予算のかなりの部分(60%以上)が文部科学省関連の予算他というのもその理由かと思います。(21年度の省庁別予算についてはこちらの「関係府省による概算要求(PDF)」に載っています。)
という訳でこの基本計画特別委員会で基本計画が決定される訳ではありませんが、今後の総合科学技術会議での議論に大きな影響を与える委員会であり今度で5回目になります。

これまで委員会の大きな議論としては、「我が国が中長期的に目指すべき国の姿」「イノベーション人材育成」がありました。

特に「目指すべき国の姿」とは大きく出たもので、野依座長も発言されていますが、本来このレベルの委員会では議論しきれないものではありますが、かといってこの認識がある程度そろっていないと、基本計画の枠組みを十分議論できないのも事実でしょう。
重点的に推進する科学技術ということについては、多くの委員の方が基礎研究、それも多様な学術研究の重点化という意識を持たれているような印象を受けました。
ただし、個々の研究者レベルに留まる自由発想研究というものから、たこつぼに入らない総合的な学術研究(環境?)の中から、創造的な研究の芽を育てて、それを社会に資するものへと育てていく様な意識も強く感じ取れます。

人材育成は、どの話の中でも挙がってくる話ですが、まだ具体的に方向性は見えてきていないように思われます。
様々な意見が述べられていますが、国際的な人材獲得競争という点については、強く意識されているのではないかと思います。
また、キャリアパス、トップサイエンティストの育成といったことも相変わらず議論に多くの時間が割かれています。
どうも議論の対象があちらこちらに飛んでしまっている印象が強く、どういった人材を意識しているのか、その時々の対象が委員の中で統一できていないようにも思えます。

というのも私見としては、人材育成を考える場合、世界的なトップ研究者をいかに確保できるのかということに議論が集中しすぎているように常々思っているからです。
今の多くの研究現場は一人の独創性のあるスターだけでは何も出来ないことは明らかで、周りに様々な専門性に優れた研究者、技術者がいて、また、マネージメントの専門家、外部との交渉や技術移転などに秀でた方などそれぞれの役割をこなせる能力を有するメンバーで固めなければ太刀打ちできない状況であると思います
そうした環境があって、初めて独創性のある研究成果が出て、またそれが社会へと還元されていく道筋が生まれてくるという認識を強く持つ必要があるのです。

傑出した独創性を有する人材は、ある意味創ろうとして創れるものでもないように思います。
そういう人材が出たときに、周りを固めるメンバーがいて、はじめて目的とする独創的成果が実を結ぶと考えると、実は科学技術政策として着実に用意すべきなのは、こうした周りを固められる人材の育成ではないか、そして今日本に欠如しているのは、そういった人材の居場所と人材育成システムではないかというのが私の考えです。
独創性人材の芽を摘んではいけないが、その育成手段にあまり枠をはめる、政策的に誘導する、というのはどだい無理がある考えのように思えて仕方がありません。

委員の方の発現の中にも同じような趣旨のコメントがちらほらと出ていますが、まだそういった考えが強く示されているような雰囲気ではありませんね。



このあたりはまた追々独り言を書いていきたいと思います。

ではまた。

2009年9月9日水曜日

ブログ再開か?

ご無沙汰しています。
あっという間に約6ヶ月間も書いていませんでした。(Googleのニュースだけは大変よく働いてくれていたようですが。)
内容をかなり堅めに設定していたので、一旦書かずにいると、なかなか再開できずに今日に至ってしまいました。
基本同じく堅いブログではありますが、少し柔らかめのものも入れて、もう少しは書き込んでいくようにしたいと思います。

この半年間の間にはいろいろと本来ここで取り上げなければならなかったことが目白押しでした。

科学政策面では、まずパブコメを受けて最終的に修正された「長期的展望に立つ脳科学研究の基本的構想及び推進方策について ~総合的人間科学の構築と社会への貢献を目指して~」(第1次答申)が6月23日に科学技術・学術審議会から文部科学大臣に手交されました。
いろいろとご意見のある方も多いと思いますが、かなり細部にわたり考えられていますので、これが有効な脳科学の推進に繋がっていけばよいと願っています。

この答申に書かれている内容に関連して、22年度の概算要求として「脳科学研究戦略推進プログラム」の新規プログラム2件が文部科学省より出ています。
※以下のPDF内11ページ参照。注)1,798kBあります。
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2009/08/28/1283693_017.pdf

今特に注目している動向は第4期科学技術計画策定に向けての動きです。
現在は主に文部科学省の基本計画特別委員会(第4期科学技術基本計画)において議論が進められていますが、これまでとは少し違ったトーンになっている印象を持っています。
また、これらについてはこれから順次コメントしていきたいと思っています。

科学技術政策にとってこの基本計画の策定は非常に大きな影響を持っています、が、それ以上に影響しそうなのが政権交代後に何がどう変わるかという所ですが、今の段階で変に予測しても当たらなそうですね。

個人的には5月に東北大脳科学グローバルCOE キャリアパスセミナーでお話しさせていただき、同じく5月末に「神経科学リテラシー」プロジェクト(JST/RISTEX受託研究)主催のシンポジウム“神経科学リテラシー”でもお話をさせていただきました。内容は、お知らせのところに近いうちにUPします。

個人的な話としましては、文部科学省「脳科学研究戦略推進プログラム」のプログラムオフィサーを7月よりお引き受けしております。
「社会的行動を支える脳基盤の計測・支援技術の開発」(課題D)を担当いたします。
今後の活動についてはHPにて順次公開される予定ですが、まだ準備が出来ていません。

最後に一つお知らせ。
私の所属しています、生理学研究所多次元共同脳科学推進センター主催で、来週の日本神経科学大会サテライトシンポジウムとして、「脳科学教育の現状と理想 —バーチャル脳科学専攻設立を目指して—」と題するワークショップを開催します。
急遽決まったもので、通常の学会講演の時間外に行うことになり、20時からと言うことですが、脳科学が主体となっている大学院教育拠点の方に、実際の現状と問題点などを語っていただき、より良いものにして行くにはどうすればよいかを議論したいと考えています。
様々なご意見の方にご参加いただければと思っています。

こういった内容についてのコメントを半年も間を空けずに書き込んで行く予定です。