2009年11月4日水曜日
多次元脳のつぶやきに人材育成に関わる提言を書きました。
主張オンリーなので、こちら「多次元脳空間」ではなく、「多次元脳のつぶやき」の方に最近考えていたこと「大学の役割(その1)」を少しまとめてみました。ご興味のある方はご覧いただき、コメントをいただければ幸いです。
2009年10月14日水曜日
第5回基本計画特別委員会:社会との連携
前回このブログで基本計画特別委員会での主要議題(研究評価、研究資金制度、社会との連携)の研究評価を取り上げましたが、その最後のところと関わってくる(と私が思っている)社会との連携について思う所を書いていきます。
その前に実は第6回の委員会が10月1日に既に開催されています。
こちらにも参加しましたが、この回はもう一つ有益な情報は得られなかった気がしますので、まだ第5回の続きをします。(といって更新が遅いいい訳ですみません。)
議事録や資料がまだなかなかアップされていないので、かろうじてこの情報もその先を行っているという状況です。
また、第7回も今週末10月16日に開催され、こちらも傍聴しますので、なるべく早くお知らせするようにしたいと思います。
ということで社会との連携についてです。
9月14日のブログにも少し書きましたが、科学技術コミュニケーションの重要性は既に第3期でも取り上げられていて、今回も科学技術の内容を広く専門家以外の方にも理解してもらおうという広報型の活動は引き続き重要であろうと言うことでした。
そのための科学技術コミュニケーターの重要性も述べられていたと思います。
但し当時(第3期の検討当時)の科学技術コミュニケーションは、成果を社会に伝える翻訳者としての位置づけが強く、今回の議論は社会から科学技術へのベクトルを担う役割が主に議論されていたと思います。
野依先生もぽろっと漏らしていましたが、「科学技術コミュニケーターに方向性を御指南いただく事になると言うのは個人的にはいやですが、しかし重要な役割」だという位置づけです。
議論にも出ていましたが、このような役割は科学技術の成果を理解して翻訳する能力とはまた異なるもので、政策について理解し提言できる人材と言うことになります。
そのような人材がいるのか?というコメントも何人かから出ていましたし、確かにそんな人材は難しいだろうなと皆さんやはり思われているようでした。
委員会の議論では出ていなかったと思いますが、これは最近よく出てくる双方向性の科学技術コミュニケーションとも少し違う役回りのように思います。
双方向性という場合、研究者と一般の方との間での双方向性を取り上げていることが多いのではないでしょうか?
この点、個人的には前から気になっていたのですが、研究者と一般の方の双方向性だけではちょっと足らない(双方向性自身もまだ全く確立できていませんが)のではないかということがあります。
コミュニケーションの目的の一つとして、一般の方に研究の現状や意義、おもしろさなどを理解していただいた上で、世の中の意志も織り込んで研究環境や研究システムを良くしようと言うことがあるとしたら、それを実現するための政策立案段階に一般の方の考えを反映できる(そのままではありませんが)ことが必要になると思います。
しかし研究者と一般の方との双方向のコミュニケーションを通じて、研究者が理解してそれを実行する、あるいは政策立案に研究者が主体となって取り組むことが出来れば良いのですが、純粋に研究に集中しようとすればするほど、政策立案といったことを強く意識することは実際上難しく、なかなか出来ないのが現実でしょう。
そのために研究者と一般の方との双方向コミュニケーションを担う人材には、更に、両者と政策立案者との間のコミュニケーションをとれる能力が求められてくるのだと思います。
研究者と政策立案者の間をつなぐ役割というのは実はPOの役割に当たると考えられます。
POの仕事というと課題の管理という事で、普通決まったプログラムについて進捗を管理するものと思われがちですが、米国のPO(の一部)や日本のPOの位置づけの説明にプログラム方針の見直しというカテゴリがあります。
その中には担当プログラムとは別に新規のプログラムの設計・立案などが含まれています。
この設計・立案の過程では、現状の科学技術の俯瞰から今後の方向性の把握といった研究者の素養が求められ、かつ、政策的観点からの絞り込みといった能力が求められます。
この政策的観点というところは、主に社会ニーズの把握に当たり、ここに一般の方(企業や各種団体なども含みます)と政策立案者とのコミュニケーションを取り持つ能力が実は必要となってくることになります。
それらをふまえていろいろと科学技術コミュニケーターと議論をしたことがあるのですが、私自身は双方向性というのは単純化しすぎで、循環型あるいはネットワーク型と捉えて、科学技術コミュニケーションを議論すべきだと考えています。
そこには一人の人材ではおそらく対応できない広がりがあり、それぞれの役割を担える人材育成が必要となってくるでしょう。
より分かりにくくなるかもしれませんが、例としては、
研究者→(成果、コミュニケーター1)→一般の方→(コミュニケーター2)→官僚→(政策、コミュニケーター3)→研究者
といった基本的な流れがあるのではないかと思います。
もちろん、
研究者→(成果、コミュニケーター1)→官僚
や
一般の方→(コミュニケーター2)→研究者
といったものも入ってきます、だからネットワーク型。
更に、研究者→(コミュニケーター4)→研究者も必要な気がします。
本来行政は、一般の方→(コミュニケーター2)→官僚が確立しているべきですが、日本にはその仕組みがあまりないように思います。
研究者→官僚→(政策)→研究者の関係が強く、もっとオープンな仕組みを作らなければ、新しい大発見や世界的な状況の変化などに対応してダイナミックにシステムを適応させていくことができないでしょう。
そのためにも様々な場面でのコミュニケーションを媒介できるいろいろなタイプの科学技術コミュニケーターが重要で、その育成方策と行ったものを検討していったほしいと思っています。
まためちゃめちゃ長くて分かりにくい文章になってしまいました。
次回はもう少し間隔を短く書き込みたいと思います。
その前に実は第6回の委員会が10月1日に既に開催されています。
こちらにも参加しましたが、この回はもう一つ有益な情報は得られなかった気がしますので、まだ第5回の続きをします。(といって更新が遅いいい訳ですみません。)
議事録や資料がまだなかなかアップされていないので、かろうじてこの情報もその先を行っているという状況です。
また、第7回も今週末10月16日に開催され、こちらも傍聴しますので、なるべく早くお知らせするようにしたいと思います。
ということで社会との連携についてです。
9月14日のブログにも少し書きましたが、科学技術コミュニケーションの重要性は既に第3期でも取り上げられていて、今回も科学技術の内容を広く専門家以外の方にも理解してもらおうという広報型の活動は引き続き重要であろうと言うことでした。
そのための科学技術コミュニケーターの重要性も述べられていたと思います。
但し当時(第3期の検討当時)の科学技術コミュニケーションは、成果を社会に伝える翻訳者としての位置づけが強く、今回の議論は社会から科学技術へのベクトルを担う役割が主に議論されていたと思います。
野依先生もぽろっと漏らしていましたが、「科学技術コミュニケーターに方向性を御指南いただく事になると言うのは個人的にはいやですが、しかし重要な役割」だという位置づけです。
議論にも出ていましたが、このような役割は科学技術の成果を理解して翻訳する能力とはまた異なるもので、政策について理解し提言できる人材と言うことになります。
そのような人材がいるのか?というコメントも何人かから出ていましたし、確かにそんな人材は難しいだろうなと皆さんやはり思われているようでした。
委員会の議論では出ていなかったと思いますが、これは最近よく出てくる双方向性の科学技術コミュニケーションとも少し違う役回りのように思います。
双方向性という場合、研究者と一般の方との間での双方向性を取り上げていることが多いのではないでしょうか?
この点、個人的には前から気になっていたのですが、研究者と一般の方の双方向性だけではちょっと足らない(双方向性自身もまだ全く確立できていませんが)のではないかということがあります。
コミュニケーションの目的の一つとして、一般の方に研究の現状や意義、おもしろさなどを理解していただいた上で、世の中の意志も織り込んで研究環境や研究システムを良くしようと言うことがあるとしたら、それを実現するための政策立案段階に一般の方の考えを反映できる(そのままではありませんが)ことが必要になると思います。
しかし研究者と一般の方との双方向のコミュニケーションを通じて、研究者が理解してそれを実行する、あるいは政策立案に研究者が主体となって取り組むことが出来れば良いのですが、純粋に研究に集中しようとすればするほど、政策立案といったことを強く意識することは実際上難しく、なかなか出来ないのが現実でしょう。
そのために研究者と一般の方との双方向コミュニケーションを担う人材には、更に、両者と政策立案者との間のコミュニケーションをとれる能力が求められてくるのだと思います。
研究者と政策立案者の間をつなぐ役割というのは実はPOの役割に当たると考えられます。
POの仕事というと課題の管理という事で、普通決まったプログラムについて進捗を管理するものと思われがちですが、米国のPO(の一部)や日本のPOの位置づけの説明にプログラム方針の見直しというカテゴリがあります。
その中には担当プログラムとは別に新規のプログラムの設計・立案などが含まれています。
この設計・立案の過程では、現状の科学技術の俯瞰から今後の方向性の把握といった研究者の素養が求められ、かつ、政策的観点からの絞り込みといった能力が求められます。
この政策的観点というところは、主に社会ニーズの把握に当たり、ここに一般の方(企業や各種団体なども含みます)と政策立案者とのコミュニケーションを取り持つ能力が実は必要となってくることになります。
それらをふまえていろいろと科学技術コミュニケーターと議論をしたことがあるのですが、私自身は双方向性というのは単純化しすぎで、循環型あるいはネットワーク型と捉えて、科学技術コミュニケーションを議論すべきだと考えています。
そこには一人の人材ではおそらく対応できない広がりがあり、それぞれの役割を担える人材育成が必要となってくるでしょう。
より分かりにくくなるかもしれませんが、例としては、
研究者→(成果、コミュニケーター1)→一般の方→(コミュニケーター2)→官僚→(政策、コミュニケーター3)→研究者
といった基本的な流れがあるのではないかと思います。
もちろん、
研究者→(成果、コミュニケーター1)→官僚
や
一般の方→(コミュニケーター2)→研究者
といったものも入ってきます、だからネットワーク型。
更に、研究者→(コミュニケーター4)→研究者も必要な気がします。
本来行政は、一般の方→(コミュニケーター2)→官僚が確立しているべきですが、日本にはその仕組みがあまりないように思います。
研究者→官僚→(政策)→研究者の関係が強く、もっとオープンな仕組みを作らなければ、新しい大発見や世界的な状況の変化などに対応してダイナミックにシステムを適応させていくことができないでしょう。
そのためにも様々な場面でのコミュニケーションを媒介できるいろいろなタイプの科学技術コミュニケーターが重要で、その育成方策と行ったものを検討していったほしいと思っています。
まためちゃめちゃ長くて分かりにくい文章になってしまいました。
次回はもう少し間隔を短く書き込みたいと思います。
2009年9月29日火曜日
第5回基本計画特別委員会:研究評価
前回の委員会での主要議題(研究評価、研究資金制度、社会との連携)について少し詳細にコメントしたいと思います。
まず研究評価ですが、その意義として
1.人材育成
2.研究コミュニティーの活性化
3.社会への説明責任
があげられている。
いずれもポジティブ指向な表現で、選別というニュアンスではない。少なくとも表現の上ではそうなっています。
それを実現するための基本的考え方として、
1.目的に応じた評価システムの再構築
2.階層構造と階層間の関係が明確化された評価システム群の形成
3.一貫性のある評価とマネジメントの実施
が示されています。
1は、評価の労力も考えようといった、評価に関わる様々な主体者を意識してシステムを再構築しようと言う趣旨のよう。
3は、事前、中間、事後評価の連続性という事。
これはそれなりにすぐ分かる話ですが、2の意味はちょっと分かりにくい。しかし今回の肝でもあるようだ。
この階層とは、政策ー施策ープログラム・制度ー研究開発課題(プロジェクト)を意味するらしい。
従来はともすると課題レベルの評価のウエイトが大きくなっていたのを施策ープログラム・制度レベルをより重視しようと言うことのようである。
個々の課題がどうであったという事で個人を選別するというのではなく、それらの成果の評価からプログラム・制度やその元となった施策が適切であったか、今後どう変えるべきであるかというレベルでの評価をより充実させようと言うことだと思われる。
その結果、最終的には国の政策レベルでの本来の目的実現により有効な施策ープログラムを構築したいということのようです。
こうした制度設計を述べている中でちらちらと目に付くのは、不確実性が高く長期的な視点が必要な研究、学術研究の多くがそれに当たると思うが、そういった研究への配慮、意識が強く出ている点があります。
「当初の目標達成に失敗しても予期せざる波及効果に大きな意味があるかを積極的に評価」といった文言にそういった姿勢がよく現れている。
一方で、社会的課題解決のための研究に対しては、目的達成への道筋や必要技術群の明確化、といった視点で明確に評価することも当然述べられている。
いずれにしてもより上位にある目的をどう達成するのかという観点が強く打ち出されている点は、ポジティブ指向でよいと思います。
これを実現するためには、「研究開発評価に係わる専門人材の育成」が上げられているが、委員会での議論の中で、課題評価についてはこれまでのピュアレビューシステムなどの実績もあり、科学技術の専門家がその役割を担えるが、より上位のプログラム・制度や施策レベルでの評価が出来る人材はそういったこれまでの評価者とは異なり、ほとんどいないのではないかという意見が出ていた。
この意見は全くその通りだと思う。
実際にはこういったレベルでの役割を担う人材として、プログラムディレクター(PD)やプログラムオフィサー(PO)といったポジションが期待されるのであるが、日本においてはまだそういう意味でのPD、POはほとんどいないであろうし、また育成できる組織もまだ無いと言うのが現実でしょう。
私の持論の一つに、米国ではPD、PO制度が50年ほどの実績があり、その中で充実したシステムが出来てきたのに対して、日本ではまだ10年にも満たない。実際には未だ形式的なシステムでもあるとも言える状態で、これを米国の半分の期間の25年で現在の米国相当の(同じではない)システムに出来れば御の字ではないか、というものがあります。米国などの先行事例があるので、全く初めから構築するよりは早く出来てほしいので25年とか言っていますが、かなり適当な数字ではあります。
今回施策レベルでの評価の充実ということが取り上げられているのは非常に重要な点ですが、第4期の基本計画内(平成23年度から27年度)でこれを実現できると考えるのはかなり楽観的であって、より長期的な展望としてそうしたシステムを実現するために次の4期でどうするのかと言う議論に掘り下げていただければ良いなあと思いました。
とりあえず今回はここまで。
まず研究評価ですが、その意義として
1.人材育成
2.研究コミュニティーの活性化
3.社会への説明責任
があげられている。
いずれもポジティブ指向な表現で、選別というニュアンスではない。少なくとも表現の上ではそうなっています。
それを実現するための基本的考え方として、
1.目的に応じた評価システムの再構築
2.階層構造と階層間の関係が明確化された評価システム群の形成
3.一貫性のある評価とマネジメントの実施
が示されています。
1は、評価の労力も考えようといった、評価に関わる様々な主体者を意識してシステムを再構築しようと言う趣旨のよう。
3は、事前、中間、事後評価の連続性という事。
これはそれなりにすぐ分かる話ですが、2の意味はちょっと分かりにくい。しかし今回の肝でもあるようだ。
この階層とは、政策ー施策ープログラム・制度ー研究開発課題(プロジェクト)を意味するらしい。
従来はともすると課題レベルの評価のウエイトが大きくなっていたのを施策ープログラム・制度レベルをより重視しようと言うことのようである。
個々の課題がどうであったという事で個人を選別するというのではなく、それらの成果の評価からプログラム・制度やその元となった施策が適切であったか、今後どう変えるべきであるかというレベルでの評価をより充実させようと言うことだと思われる。
その結果、最終的には国の政策レベルでの本来の目的実現により有効な施策ープログラムを構築したいということのようです。
こうした制度設計を述べている中でちらちらと目に付くのは、不確実性が高く長期的な視点が必要な研究、学術研究の多くがそれに当たると思うが、そういった研究への配慮、意識が強く出ている点があります。
「当初の目標達成に失敗しても予期せざる波及効果に大きな意味があるかを積極的に評価」といった文言にそういった姿勢がよく現れている。
一方で、社会的課題解決のための研究に対しては、目的達成への道筋や必要技術群の明確化、といった視点で明確に評価することも当然述べられている。
いずれにしてもより上位にある目的をどう達成するのかという観点が強く打ち出されている点は、ポジティブ指向でよいと思います。
これを実現するためには、「研究開発評価に係わる専門人材の育成」が上げられているが、委員会での議論の中で、課題評価についてはこれまでのピュアレビューシステムなどの実績もあり、科学技術の専門家がその役割を担えるが、より上位のプログラム・制度や施策レベルでの評価が出来る人材はそういったこれまでの評価者とは異なり、ほとんどいないのではないかという意見が出ていた。
この意見は全くその通りだと思う。
実際にはこういったレベルでの役割を担う人材として、プログラムディレクター(PD)やプログラムオフィサー(PO)といったポジションが期待されるのであるが、日本においてはまだそういう意味でのPD、POはほとんどいないであろうし、また育成できる組織もまだ無いと言うのが現実でしょう。
私の持論の一つに、米国ではPD、PO制度が50年ほどの実績があり、その中で充実したシステムが出来てきたのに対して、日本ではまだ10年にも満たない。実際には未だ形式的なシステムでもあるとも言える状態で、これを米国の半分の期間の25年で現在の米国相当の(同じではない)システムに出来れば御の字ではないか、というものがあります。米国などの先行事例があるので、全く初めから構築するよりは早く出来てほしいので25年とか言っていますが、かなり適当な数字ではあります。
今回施策レベルでの評価の充実ということが取り上げられているのは非常に重要な点ですが、第4期の基本計画内(平成23年度から27年度)でこれを実現できると考えるのはかなり楽観的であって、より長期的な展望としてそうしたシステムを実現するために次の4期でどうするのかと言う議論に掘り下げていただければ良いなあと思いました。
とりあえず今回はここまで。
2009年9月14日月曜日
第5回基本計画特別委員会を傍聴して
金曜日12日に文科省の基本計画特別委員会を傍聴してきました。
今回は評価と研究費配分に関する議論を中心に進められました。
評価に関しては、個々の課題評価のことを多くの研究者は意識してしまうと思いますが、委員会での評価の議論は施策、プログラムレベルでの評価に重点が置かれていて、評価の階層構造の再認識とその階層間を繋ぐ、下の階層から上位の階層にその結果を反映させる制度設計について議論が行われていました。
また、そうした評価に対する議論の背景の一つには評価疲れと言う問題点も意識されていると思われます。これは研究者が研究に集中出来る環境を4期の基本計画ではより強く打ち出そうとしていること(私見)とも関係しているように思いました。
評価の階層性を明確にし、より上位のプログラム、施策、政策の再検討に結びつけるというのは、ある意味以前からも言われていることですが、より具体的に見えてくると大きく科学技術の振興自身が変わってくると期待されます。
教育研究費配分については特定の大学への集中の度合いが日本では大きいことがデータとして示されたのは興味深かったです。
教育研究費獲得額トップから獲得額が10%までに減少する程度を日米で比較していて、米国の方が減衰が(はるかに)ゆっくりだというものです。
このデータを単に一面的に議論することはできないという点は、委員会でも何人もの委員の方から指摘されていました。
集中すべきものと基盤的な研究費をどう配分するかという議論と直接関わってくるからです。
前回までの委員会でも基盤的な研究費(多くは運営費交付金を指すものと思われます)重視の意見が多かったと思いますが、今回委員長の野依先生が、運営費交付金1%減阻止ではなく、運営費交付金倍増提案をされていたのは、いろいろな意味で野依先生らしいなと思いました。
これら研究費の制度については、PO、PDの話が頻繁に出てきていましたが、次の論点も含めて個人的には多くは肯定できるけれど、もう一つ議論できていないところがあるなと思いました。これについてはまた後日。
最後は科学技術と社会の関わりに関する議論でした。
科学技術コミュニケーションを主な話となっていて、科学技術コミュニケーションにより力を入れていくべきという事ではほとんど全会一致でなかったかと思います。
また、特に科学技術を社会に伝えるというだけではなく、科学技術政策に社会からフィードバックするためにも科学技術コミュニケーターが必要であるという方向性であったように思います。
この役割、じつはPO、PDの話とも深く絡んで来ると思っています。
どの内容も一言二言では足りない論点があるので、今後ボチボチここに書いていきたいと思います。
まずは全体のご紹介まで。
しかし文科省の第2講堂は音響が悪く、発言がよく聞き取れないところがたたありました。
もうちょっとなんとかならないものでしょうかね。
資料のホームページへのUPも、他の委員会より遅いような気もしますね。
今回は評価と研究費配分に関する議論を中心に進められました。
評価に関しては、個々の課題評価のことを多くの研究者は意識してしまうと思いますが、委員会での評価の議論は施策、プログラムレベルでの評価に重点が置かれていて、評価の階層構造の再認識とその階層間を繋ぐ、下の階層から上位の階層にその結果を反映させる制度設計について議論が行われていました。
また、そうした評価に対する議論の背景の一つには評価疲れと言う問題点も意識されていると思われます。これは研究者が研究に集中出来る環境を4期の基本計画ではより強く打ち出そうとしていること(私見)とも関係しているように思いました。
評価の階層性を明確にし、より上位のプログラム、施策、政策の再検討に結びつけるというのは、ある意味以前からも言われていることですが、より具体的に見えてくると大きく科学技術の振興自身が変わってくると期待されます。
教育研究費配分については特定の大学への集中の度合いが日本では大きいことがデータとして示されたのは興味深かったです。
教育研究費獲得額トップから獲得額が10%までに減少する程度を日米で比較していて、米国の方が減衰が(はるかに)ゆっくりだというものです。
このデータを単に一面的に議論することはできないという点は、委員会でも何人もの委員の方から指摘されていました。
集中すべきものと基盤的な研究費をどう配分するかという議論と直接関わってくるからです。
前回までの委員会でも基盤的な研究費(多くは運営費交付金を指すものと思われます)重視の意見が多かったと思いますが、今回委員長の野依先生が、運営費交付金1%減阻止ではなく、運営費交付金倍増提案をされていたのは、いろいろな意味で野依先生らしいなと思いました。
これら研究費の制度については、PO、PDの話が頻繁に出てきていましたが、次の論点も含めて個人的には多くは肯定できるけれど、もう一つ議論できていないところがあるなと思いました。これについてはまた後日。
最後は科学技術と社会の関わりに関する議論でした。
科学技術コミュニケーションを主な話となっていて、科学技術コミュニケーションにより力を入れていくべきという事ではほとんど全会一致でなかったかと思います。
また、特に科学技術を社会に伝えるというだけではなく、科学技術政策に社会からフィードバックするためにも科学技術コミュニケーターが必要であるという方向性であったように思います。
この役割、じつはPO、PDの話とも深く絡んで来ると思っています。
どの内容も一言二言では足りない論点があるので、今後ボチボチここに書いていきたいと思います。
まずは全体のご紹介まで。
しかし文科省の第2講堂は音響が悪く、発言がよく聞き取れないところがたたありました。
もうちょっとなんとかならないものでしょうかね。
資料のホームページへのUPも、他の委員会より遅いような気もしますね。
2009年9月10日木曜日
明日、基本計画特別委員会を傍聴しに行きます。
明日11日は、昨日ちらっと書きました文部科学省の第5回基本計画特別委員会(第4期科学技術基本計画)を傍聴しに行く予定です。
科学技術基本計画といってもぴんと来ない方もいるかもしれません。
現在は、第3期科学技術計画期間中(平成18年度から平成22年度までの5年間)で、第4期基本計画は、平成23年3月に閣議決定をすることが想定されています。
この第3期の説明が文部科学省のHPに書いていますが、 科学技術基本法の規定に基づき、政府は、科学技術の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るためにこの計画を決定した、とあります。
「科学技術基本計画は、今後10年間程度を見通した5年間の科学技術政策を具体化するものとして策定するもの」であり、よく耳にする重点4分野(ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料)などというのも、この基本計画が元になって進められています。
昨今のイノベーションの重視もこの基本計画が根っこにあります。
こうした基本的なコンセプトとともに、より具体的な推進すべき研究領域や、人材育成の方策などが盛り込まれ、国における様々な科学技術政策の根拠となっているもので、最終的には個々のファンディングや大学の方向性に大きく関わってくるものです。
この基本計画自身は内閣府の総合科学技術会議で議論され、その案が最終的に閣議決定されます。
なのに文部科学省でその前に特別委員会を設置して議論を進めているのはいろいろと理由があるのでしょうが、一つには科学技術予算のかなりの部分(60%以上)が文部科学省関連の予算他というのもその理由かと思います。(21年度の省庁別予算についてはこちらの「関係府省による概算要求(PDF)」に載っています。)
という訳でこの基本計画特別委員会で基本計画が決定される訳ではありませんが、今後の総合科学技術会議での議論に大きな影響を与える委員会であり今度で5回目になります。
これまで委員会の大きな議論としては、「我が国が中長期的に目指すべき国の姿」「イノベーション人材育成」がありました。
特に「目指すべき国の姿」とは大きく出たもので、野依座長も発言されていますが、本来このレベルの委員会では議論しきれないものではありますが、かといってこの認識がある程度そろっていないと、基本計画の枠組みを十分議論できないのも事実でしょう。
重点的に推進する科学技術ということについては、多くの委員の方が基礎研究、それも多様な学術研究の重点化という意識を持たれているような印象を受けました。
ただし、個々の研究者レベルに留まる自由発想研究というものから、たこつぼに入らない総合的な学術研究(環境?)の中から、創造的な研究の芽を育てて、それを社会に資するものへと育てていく様な意識も強く感じ取れます。
人材育成は、どの話の中でも挙がってくる話ですが、まだ具体的に方向性は見えてきていないように思われます。
様々な意見が述べられていますが、国際的な人材獲得競争という点については、強く意識されているのではないかと思います。
また、キャリアパス、トップサイエンティストの育成といったことも相変わらず議論に多くの時間が割かれています。
どうも議論の対象があちらこちらに飛んでしまっている印象が強く、どういった人材を意識しているのか、その時々の対象が委員の中で統一できていないようにも思えます。
というのも私見としては、人材育成を考える場合、世界的なトップ研究者をいかに確保できるのかということに議論が集中しすぎているように常々思っているからです。
今の多くの研究現場は一人の独創性のあるスターだけでは何も出来ないことは明らかで、周りに様々な専門性に優れた研究者、技術者がいて、また、マネージメントの専門家、外部との交渉や技術移転などに秀でた方などそれぞれの役割をこなせる能力を有するメンバーで固めなければ太刀打ちできない状況であると思います
そうした環境があって、初めて独創性のある研究成果が出て、またそれが社会へと還元されていく道筋が生まれてくるという認識を強く持つ必要があるのです。
傑出した独創性を有する人材は、ある意味創ろうとして創れるものでもないように思います。
そういう人材が出たときに、周りを固めるメンバーがいて、はじめて目的とする独創的成果が実を結ぶと考えると、実は科学技術政策として着実に用意すべきなのは、こうした周りを固められる人材の育成ではないか、そして今日本に欠如しているのは、そういった人材の居場所と人材育成システムではないかというのが私の考えです。
独創性人材の芽を摘んではいけないが、その育成手段にあまり枠をはめる、政策的に誘導する、というのはどだい無理がある考えのように思えて仕方がありません。
委員の方の発現の中にも同じような趣旨のコメントがちらほらと出ていますが、まだそういった考えが強く示されているような雰囲気ではありませんね。
このあたりはまた追々独り言を書いていきたいと思います。
ではまた。
科学技術基本計画といってもぴんと来ない方もいるかもしれません。
現在は、第3期科学技術計画期間中(平成18年度から平成22年度までの5年間)で、第4期基本計画は、平成23年3月に閣議決定をすることが想定されています。
この第3期の説明が文部科学省のHPに書いていますが、 科学技術基本法の規定に基づき、政府は、科学技術の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るためにこの計画を決定した、とあります。
「科学技術基本計画は、今後10年間程度を見通した5年間の科学技術政策を具体化するものとして策定するもの」であり、よく耳にする重点4分野(ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料)などというのも、この基本計画が元になって進められています。
昨今のイノベーションの重視もこの基本計画が根っこにあります。
こうした基本的なコンセプトとともに、より具体的な推進すべき研究領域や、人材育成の方策などが盛り込まれ、国における様々な科学技術政策の根拠となっているもので、最終的には個々のファンディングや大学の方向性に大きく関わってくるものです。
この基本計画自身は内閣府の総合科学技術会議で議論され、その案が最終的に閣議決定されます。
なのに文部科学省でその前に特別委員会を設置して議論を進めているのはいろいろと理由があるのでしょうが、一つには科学技術予算のかなりの部分(60%以上)が文部科学省関連の予算他というのもその理由かと思います。(21年度の省庁別予算についてはこちらの「関係府省による概算要求(PDF)」に載っています。)
という訳でこの基本計画特別委員会で基本計画が決定される訳ではありませんが、今後の総合科学技術会議での議論に大きな影響を与える委員会であり今度で5回目になります。
これまで委員会の大きな議論としては、「我が国が中長期的に目指すべき国の姿」「イノベーション人材育成」がありました。
特に「目指すべき国の姿」とは大きく出たもので、野依座長も発言されていますが、本来このレベルの委員会では議論しきれないものではありますが、かといってこの認識がある程度そろっていないと、基本計画の枠組みを十分議論できないのも事実でしょう。
重点的に推進する科学技術ということについては、多くの委員の方が基礎研究、それも多様な学術研究の重点化という意識を持たれているような印象を受けました。
ただし、個々の研究者レベルに留まる自由発想研究というものから、たこつぼに入らない総合的な学術研究(環境?)の中から、創造的な研究の芽を育てて、それを社会に資するものへと育てていく様な意識も強く感じ取れます。
人材育成は、どの話の中でも挙がってくる話ですが、まだ具体的に方向性は見えてきていないように思われます。
様々な意見が述べられていますが、国際的な人材獲得競争という点については、強く意識されているのではないかと思います。
また、キャリアパス、トップサイエンティストの育成といったことも相変わらず議論に多くの時間が割かれています。
どうも議論の対象があちらこちらに飛んでしまっている印象が強く、どういった人材を意識しているのか、その時々の対象が委員の中で統一できていないようにも思えます。
というのも私見としては、人材育成を考える場合、世界的なトップ研究者をいかに確保できるのかということに議論が集中しすぎているように常々思っているからです。
今の多くの研究現場は一人の独創性のあるスターだけでは何も出来ないことは明らかで、周りに様々な専門性に優れた研究者、技術者がいて、また、マネージメントの専門家、外部との交渉や技術移転などに秀でた方などそれぞれの役割をこなせる能力を有するメンバーで固めなければ太刀打ちできない状況であると思います
そうした環境があって、初めて独創性のある研究成果が出て、またそれが社会へと還元されていく道筋が生まれてくるという認識を強く持つ必要があるのです。
傑出した独創性を有する人材は、ある意味創ろうとして創れるものでもないように思います。
そういう人材が出たときに、周りを固めるメンバーがいて、はじめて目的とする独創的成果が実を結ぶと考えると、実は科学技術政策として着実に用意すべきなのは、こうした周りを固められる人材の育成ではないか、そして今日本に欠如しているのは、そういった人材の居場所と人材育成システムではないかというのが私の考えです。
独創性人材の芽を摘んではいけないが、その育成手段にあまり枠をはめる、政策的に誘導する、というのはどだい無理がある考えのように思えて仕方がありません。
委員の方の発現の中にも同じような趣旨のコメントがちらほらと出ていますが、まだそういった考えが強く示されているような雰囲気ではありませんね。
このあたりはまた追々独り言を書いていきたいと思います。
ではまた。
2009年9月9日水曜日
ブログ再開か?
ご無沙汰しています。
あっという間に約6ヶ月間も書いていませんでした。(Googleのニュースだけは大変よく働いてくれていたようですが。)
内容をかなり堅めに設定していたので、一旦書かずにいると、なかなか再開できずに今日に至ってしまいました。
基本同じく堅いブログではありますが、少し柔らかめのものも入れて、もう少しは書き込んでいくようにしたいと思います。
この半年間の間にはいろいろと本来ここで取り上げなければならなかったことが目白押しでした。
科学政策面では、まずパブコメを受けて最終的に修正された「長期的展望に立つ脳科学研究の基本的構想及び推進方策について ~総合的人間科学の構築と社会への貢献を目指して~」(第1次答申)が6月23日に科学技術・学術審議会から文部科学大臣に手交されました。
いろいろとご意見のある方も多いと思いますが、かなり細部にわたり考えられていますので、これが有効な脳科学の推進に繋がっていけばよいと願っています。
この答申に書かれている内容に関連して、22年度の概算要求として「脳科学研究戦略推進プログラム」の新規プログラム2件が文部科学省より出ています。
※以下のPDF内11ページ参照。注)1,798kBあります。
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2009/08/28/1283693_017.pdf
今特に注目している動向は第4期科学技術計画策定に向けての動きです。
現在は主に文部科学省の基本計画特別委員会(第4期科学技術基本計画)において議論が進められていますが、これまでとは少し違ったトーンになっている印象を持っています。
また、これらについてはこれから順次コメントしていきたいと思っています。
科学技術政策にとってこの基本計画の策定は非常に大きな影響を持っています、が、それ以上に影響しそうなのが政権交代後に何がどう変わるかという所ですが、今の段階で変に予測しても当たらなそうですね。
個人的には5月に東北大脳科学グローバルCOE キャリアパスセミナーでお話しさせていただき、同じく5月末に「神経科学リテラシー」プロジェクト(JST/RISTEX受託研究)主催のシンポジウム“神経科学リテラシー”でもお話をさせていただきました。内容は、お知らせのところに近いうちにUPします。
個人的な話としましては、文部科学省「脳科学研究戦略推進プログラム」のプログラムオフィサーを7月よりお引き受けしております。
「社会的行動を支える脳基盤の計測・支援技術の開発」(課題D)を担当いたします。
今後の活動についてはHPにて順次公開される予定ですが、まだ準備が出来ていません。
最後に一つお知らせ。
私の所属しています、生理学研究所多次元共同脳科学推進センター主催で、来週の日本神経科学大会サテライトシンポジウムとして、「脳科学教育の現状と理想 —バーチャル脳科学専攻設立を目指して—」と題するワークショップを開催します。
急遽決まったもので、通常の学会講演の時間外に行うことになり、20時からと言うことですが、脳科学が主体となっている大学院教育拠点の方に、実際の現状と問題点などを語っていただき、より良いものにして行くにはどうすればよいかを議論したいと考えています。
様々なご意見の方にご参加いただければと思っています。
こういった内容についてのコメントを半年も間を空けずに書き込んで行く予定です。
あっという間に約6ヶ月間も書いていませんでした。(Googleのニュースだけは大変よく働いてくれていたようですが。)
内容をかなり堅めに設定していたので、一旦書かずにいると、なかなか再開できずに今日に至ってしまいました。
基本同じく堅いブログではありますが、少し柔らかめのものも入れて、もう少しは書き込んでいくようにしたいと思います。
この半年間の間にはいろいろと本来ここで取り上げなければならなかったことが目白押しでした。
科学政策面では、まずパブコメを受けて最終的に修正された「長期的展望に立つ脳科学研究の基本的構想及び推進方策について ~総合的人間科学の構築と社会への貢献を目指して~」(第1次答申)が6月23日に科学技術・学術審議会から文部科学大臣に手交されました。
いろいろとご意見のある方も多いと思いますが、かなり細部にわたり考えられていますので、これが有効な脳科学の推進に繋がっていけばよいと願っています。
この答申に書かれている内容に関連して、22年度の概算要求として「脳科学研究戦略推進プログラム」の新規プログラム2件が文部科学省より出ています。
※以下のPDF内11ページ参照。注)1,798kBあります。
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2009/08/28/1283693_017.pdf
今特に注目している動向は第4期科学技術計画策定に向けての動きです。
現在は主に文部科学省の基本計画特別委員会(第4期科学技術基本計画)において議論が進められていますが、これまでとは少し違ったトーンになっている印象を持っています。
また、これらについてはこれから順次コメントしていきたいと思っています。
科学技術政策にとってこの基本計画の策定は非常に大きな影響を持っています、が、それ以上に影響しそうなのが政権交代後に何がどう変わるかという所ですが、今の段階で変に予測しても当たらなそうですね。
個人的には5月に東北大脳科学グローバルCOE キャリアパスセミナーでお話しさせていただき、同じく5月末に「神経科学リテラシー」プロジェクト(JST/RISTEX受託研究)主催のシンポジウム“神経科学リテラシー”でもお話をさせていただきました。内容は、お知らせのところに近いうちにUPします。
個人的な話としましては、文部科学省「脳科学研究戦略推進プログラム」のプログラムオフィサーを7月よりお引き受けしております。
「社会的行動を支える脳基盤の計測・支援技術の開発」(課題D)を担当いたします。
今後の活動についてはHPにて順次公開される予定ですが、まだ準備が出来ていません。
最後に一つお知らせ。
私の所属しています、生理学研究所多次元共同脳科学推進センター主催で、来週の日本神経科学大会サテライトシンポジウムとして、「脳科学教育の現状と理想 —バーチャル脳科学専攻設立を目指して—」と題するワークショップを開催します。
急遽決まったもので、通常の学会講演の時間外に行うことになり、20時からと言うことですが、脳科学が主体となっている大学院教育拠点の方に、実際の現状と問題点などを語っていただき、より良いものにして行くにはどうすればよいかを議論したいと考えています。
様々なご意見の方にご参加いただければと思っています。
こういった内容についてのコメントを半年も間を空けずに書き込んで行く予定です。
2009年3月15日日曜日
脳科学における痛み研究の位置づけ
3月13,14日に長崎大学で開催されたThe 1st International Symposium on Pain Control and Research in Nagasakiに参加してきました。
発表された研究内容については特にここでは取り上げませんが、この分野の国内外の著名な研究者がLectureを行うという形式であったこともあり、「痛み」研究のオーバービューと聴く機会として非常に有益であったと思います。
また、脳科学研究の中での「痛み」研究を考えるいい機会にもなったので、まだ考えがまとまっていませんが、整理のためにメモ書きしておきます。
もし可能であればいろいろな立場の方のご意見もうかがえれば幸いです。
「痛み」研究に関する痛み研究者以外の脳研究者や一般の方の意識は、単純に急性の痛みということに目がいってしまい、脳科学のおもしろいテーマであるというとらえ方が弱い感じがします。
し かし、「痛み」研究を行っている研究者の関心の多くは慢性疼痛で、そこには細胞レベルでの応答性の変化や回路レベルでの可塑性など、比較的(高次機能 と比べて)シンプルに見える特定の回路におけるダイナミックな変化に対して、関連する分子レベルでの解析も可能な、魅力的な領域としての可能性があるのではないかと思います。
もちろん、多くの疾患と関連しQOLに大きく影響する「痛み」を抑えることは、社会的にも強い要求事項でもあります。
そういったことから米国では、Decade of the Brainのあと2001-2010をDecade of the Painと位置づけています。
このように、科学的にも魅力的で社会的にも重要と考えられる「痛み」の研究領域ではありますが、今ひとつ盛り上がりがないというのも事実ではないでしょうか。
日本においては特にそうかと初めは思っていましたが、どうも単に日本だけの状況でもないような気がします。
そこには、「痛み」は定量化が困難な現象であるということと、「痛み」研究以外の専門家が参入してくるのに用語や概念のハードルが高いという事があるのではないでしょうか。
「痛み」の定量化には行動として計測する従来の方法に加えて、最近は脳機能イメージングを用いて「痛み」認知の脳活動を捉えようという進展が見られています。
一方、他領域・分野からの参入の難さについては、あまり変わっていないかなというのが率直な感想です。
私自身は、たまたま「痛み」研究を活発に行っている今回のシンポジウムの主催者でもある長崎大学の植田研に籍を置いていたこともあり、比較的痛み研究には親和性のある方ですが、今回の講演を聴いていても、議論となっている現象の説明に「痛み」研究特有の表現が非常に多く、講義形式であっても分野外の人には取っつきにくいなという印象を受けました。もちろん対象者が違うといってしまえばそうですが。
この状況をどうすればよいか具体的にははっきりしませんが、もう少し一般の神経科学との接点を増やせるように、ある意味「翻訳」することが必要ではないだろうか?と思います。
上にも取り上げたように、「痛み」研究は中枢のシステムレベルでの可塑性を分子、細胞、回路から積み上げて扱うことができる魅力的な領域であり、これまで「痛み」を対象としていない分子、細胞、回路の一般的な機能に関心がある多くの脳科学者がもっと取り上げても良い系であると思いますし、それらを統合する様な計算論などの数理、情報系の研究者ももっと参入することで、大きく展開できる領域ではないでしょうか。
そのためにも他分野の研究者が「痛み」研究に参入することを加速できる取組が活発になることを期待します。
発表された研究内容については特にここでは取り上げませんが、この分野の国内外の著名な研究者がLectureを行うという形式であったこともあり、「痛み」研究のオーバービューと聴く機会として非常に有益であったと思います。
また、脳科学研究の中での「痛み」研究を考えるいい機会にもなったので、まだ考えがまとまっていませんが、整理のためにメモ書きしておきます。
もし可能であればいろいろな立場の方のご意見もうかがえれば幸いです。
「痛み」研究に関する痛み研究者以外の脳研究者や一般の方の意識は、単純に急性の痛みということに目がいってしまい、脳科学のおもしろいテーマであるというとらえ方が弱い感じがします。
し かし、「痛み」研究を行っている研究者の関心の多くは慢性疼痛で、そこには細胞レベルでの応答性の変化や回路レベルでの可塑性など、比較的(高次機能 と比べて)シンプルに見える特定の回路におけるダイナミックな変化に対して、関連する分子レベルでの解析も可能な、魅力的な領域としての可能性があるのではないかと思います。
もちろん、多くの疾患と関連しQOLに大きく影響する「痛み」を抑えることは、社会的にも強い要求事項でもあります。
そういったことから米国では、Decade of the Brainのあと2001-2010をDecade of the Painと位置づけています。
このように、科学的にも魅力的で社会的にも重要と考えられる「痛み」の研究領域ではありますが、今ひとつ盛り上がりがないというのも事実ではないでしょうか。
日本においては特にそうかと初めは思っていましたが、どうも単に日本だけの状況でもないような気がします。
そこには、「痛み」は定量化が困難な現象であるということと、「痛み」研究以外の専門家が参入してくるのに用語や概念のハードルが高いという事があるのではないでしょうか。
「痛み」の定量化には行動として計測する従来の方法に加えて、最近は脳機能イメージングを用いて「痛み」認知の脳活動を捉えようという進展が見られています。
一方、他領域・分野からの参入の難さについては、あまり変わっていないかなというのが率直な感想です。
私自身は、たまたま「痛み」研究を活発に行っている今回のシンポジウムの主催者でもある長崎大学の植田研に籍を置いていたこともあり、比較的痛み研究には親和性のある方ですが、今回の講演を聴いていても、議論となっている現象の説明に「痛み」研究特有の表現が非常に多く、講義形式であっても分野外の人には取っつきにくいなという印象を受けました。もちろん対象者が違うといってしまえばそうですが。
この状況をどうすればよいか具体的にははっきりしませんが、もう少し一般の神経科学との接点を増やせるように、ある意味「翻訳」することが必要ではないだろうか?と思います。
上にも取り上げたように、「痛み」研究は中枢のシステムレベルでの可塑性を分子、細胞、回路から積み上げて扱うことができる魅力的な領域であり、これまで「痛み」を対象としていない分子、細胞、回路の一般的な機能に関心がある多くの脳科学者がもっと取り上げても良い系であると思いますし、それらを統合する様な計算論などの数理、情報系の研究者ももっと参入することで、大きく展開できる領域ではないでしょうか。
そのためにも他分野の研究者が「痛み」研究に参入することを加速できる取組が活発になることを期待します。
2009年3月2日月曜日
第二回脳神経倫理科研研究会
3月1日に東大駒場での第二回脳神経倫理科研研究会で講演を行いました。
「国内外の脳神経科学研究の動向と科学技術政策」と言うタイトルで、最近の脳科学研究に対するファンディングの状況を大づかみに理解することを目的として発表を行いました。
発表資料はここからダウンロード可能です。
発表項目は、
脳科学研究の動向
日本における脳科学研究の推進状況
学術研究
特定領域研究
グローバルCOE
目標達成型研究
(独)科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業
脳科学研究戦略推進プログラム
米国における脳科学研究の推進状況
NIH
NSF
脳神経倫理に対するメッセージ
というものです。
多くの部分はかつて脳科学委員会で発表した資料をマイナーチェンジしたものですが、NSFは工学との接点で脳科学委員会の資料にない内容を盛り込みました。
Collaborative Research in Computational Neuroscience (CRCNS)
Cognitive Optimization and Predication: From Neuro Systems to Neurotechnology (COPN)
Adaptive Systems Technology (AST)
Cyber-enabled Discovery & Innovation (CDI)
Cyberinfrastructure (CI)
CRCNSは、コンピューテーショナル神経科学に関してNSFとNIHの共同研究の推進を図っています。
COPNは、脳内の並列回路(神経回路)がどのように適応的で最適な判断や予測を実現しているのかを対象にした研究を対象にしています。
ASTは、神経系のシステムの理解から適応的制御を有する工学システムの構築を目指すもので、個人的には非常に興味のあるところです。
CDIは、新しい計算論のコンセプト、方法、ツールの創出であり、特にデータからの知識の創出を目指すことが書かれていて、こちらも大変興味があります。
CIは、大規模コンピューティングやネットワーク技術等の整備が上げられています。
元ネタはNSFのDr. Kathie L. Olsen (Deputy Director)のスピーチ原稿です。
内容はもちろん良くまとまっていて参考になりますし、また、彼女のキャリア(研究者→政策担当者)も何かの折(キャリアパスの講演など)で使わせてもらおうと思いました。
こういったキャリアの人が日本でも増えてこなければと思います。
「国内外の脳神経科学研究の動向と科学技術政策」と言うタイトルで、最近の脳科学研究に対するファンディングの状況を大づかみに理解することを目的として発表を行いました。
発表資料はここからダウンロード可能です。
発表項目は、
脳科学研究の動向
日本における脳科学研究の推進状況
学術研究
特定領域研究
グローバルCOE
目標達成型研究
(独)科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業
脳科学研究戦略推進プログラム
米国における脳科学研究の推進状況
NIH
NSF
脳神経倫理に対するメッセージ
というものです。
多くの部分はかつて脳科学委員会で発表した資料をマイナーチェンジしたものですが、NSFは工学との接点で脳科学委員会の資料にない内容を盛り込みました。
Collaborative Research in Computational Neuroscience (CRCNS)
Cognitive Optimization and Predication: From Neuro Systems to Neurotechnology (COPN)
Adaptive Systems Technology (AST)
Cyber-enabled Discovery & Innovation (CDI)
Cyberinfrastructure (CI)
CRCNSは、コンピューテーショナル神経科学に関してNSFとNIHの共同研究の推進を図っています。
COPNは、脳内の並列回路(神経回路)がどのように適応的で最適な判断や予測を実現しているのかを対象にした研究を対象にしています。
ASTは、神経系のシステムの理解から適応的制御を有する工学システムの構築を目指すもので、個人的には非常に興味のあるところです。
CDIは、新しい計算論のコンセプト、方法、ツールの創出であり、特にデータからの知識の創出を目指すことが書かれていて、こちらも大変興味があります。
CIは、大規模コンピューティングやネットワーク技術等の整備が上げられています。
元ネタはNSFのDr. Kathie L. Olsen (Deputy Director)のスピーチ原稿です。
内容はもちろん良くまとまっていて参考になりますし、また、彼女のキャリア(研究者→政策担当者)も何かの折(キャリアパスの講演など)で使わせてもらおうと思いました。
こういったキャリアの人が日本でも増えてこなければと思います。
2009年2月25日水曜日
パブコメ:脳科学の長期展望04
「Ⅱ-2.脳科学研究推進についての考え方」では、基礎研究、基盤技術開発、社会への貢献の3つの軸と学際的・融合的研究環境という視点でまとめられている。この基礎研究の必要性について書かれている箇所には、多様で継続的かつ重厚に進めることが必要不可欠であると言うことが述べられているが、なぜそうなのかについての理由が書かれていない。あまり熟慮せずに(理由を示さずに)書かれているか、あるいはよく考えたために(理由が)書けなかったかのどちらかであろう。この答申に限らずこの点についてちゃんと考察しているものはあまり記憶にありません。皆さん当然と思っている節もある。
多様な研究の必要性は、今後もこのブログの大きなテーマになると思いますので、答申と少し離れることになるかもしれませんが、少し突っ込んでコメントすることにします。
多様な研究の必要性は、多くの研究者が考えているように基礎研究にとって非常に重要なポイントであると私も考えています。中間とりまとめでは「将来のイノベーションにつながる・・・」と言う文句が入っていますが、そのイノベーションは一体どこから出てくるのかが予め分からないという宿命があり、そのために特定のテーマや見方に偏らない多様性が必要であると言うロジックがよく用いられています。
しかしよく考えると「どこから出てくるか分からない」「投資資源は有限で限られた領域、課題に配分することになる」ということなら、恣意的に決めた(投資する側が納得する)領域や課題に投資しても、ランダムにばらまいても期待される効果は変わらないということになります。しかし実はそうではないと言うのが私の考えです。やはり似たような研究領域や課題からは似たような成果が出てくる可能性が高くなり、成果(イノベーションのネタ)の重複は少ない方が良いので、異なるものを増やすという多様性は重要であると考えられます。一方、異なる領域や課題それぞれが隔絶しているのではなく相互作用する仕組みがあれば、1+1が2以上になる投資の相乗作用が期待できます。この多様性の確保と相互の連携を促進することを念頭に置くことが科学技術政策を設計する上で重要であると考えています。サイエンスポータルのオピニオンでふれた「重層的」な研究開発の振興と言う考えはそこから来ているものです。
だからこそ学際的・融合的な領域という観点が重要で、異なるものが相互に関連し合うこと(多様性とその連結)がなぜ政策的に重要なのかということを説明できるのではないかと考えています。現実には、省庁やプロジェクト毎の縦割り「整理学」が政策決定時に最重要視されているようで、そうではなくなるべく大きな枠組みからパッケージとして考えて設計していく必要があることをどこかで訴えていかなければならないと思っています。そういう意味では、この答申も単にコロッとした「脳科学」に閉じることなく、ある意味意図的に重複を作ってでも様々な研究領域や課題と連結させていくことを目指していただければと個人的には思っています。
多様な研究の必要性は、今後もこのブログの大きなテーマになると思いますので、答申と少し離れることになるかもしれませんが、少し突っ込んでコメントすることにします。
多様な研究の必要性は、多くの研究者が考えているように基礎研究にとって非常に重要なポイントであると私も考えています。中間とりまとめでは「将来のイノベーションにつながる・・・」と言う文句が入っていますが、そのイノベーションは一体どこから出てくるのかが予め分からないという宿命があり、そのために特定のテーマや見方に偏らない多様性が必要であると言うロジックがよく用いられています。
しかしよく考えると「どこから出てくるか分からない」「投資資源は有限で限られた領域、課題に配分することになる」ということなら、恣意的に決めた(投資する側が納得する)領域や課題に投資しても、ランダムにばらまいても期待される効果は変わらないということになります。しかし実はそうではないと言うのが私の考えです。やはり似たような研究領域や課題からは似たような成果が出てくる可能性が高くなり、成果(イノベーションのネタ)の重複は少ない方が良いので、異なるものを増やすという多様性は重要であると考えられます。一方、異なる領域や課題それぞれが隔絶しているのではなく相互作用する仕組みがあれば、1+1が2以上になる投資の相乗作用が期待できます。この多様性の確保と相互の連携を促進することを念頭に置くことが科学技術政策を設計する上で重要であると考えています。サイエンスポータルのオピニオンでふれた「重層的」な研究開発の振興と言う考えはそこから来ているものです。
だからこそ学際的・融合的な領域という観点が重要で、異なるものが相互に関連し合うこと(多様性とその連結)がなぜ政策的に重要なのかということを説明できるのではないかと考えています。現実には、省庁やプロジェクト毎の縦割り「整理学」が政策決定時に最重要視されているようで、そうではなくなるべく大きな枠組みからパッケージとして考えて設計していく必要があることをどこかで訴えていかなければならないと思っています。そういう意味では、この答申も単にコロッとした「脳科学」に閉じることなく、ある意味意図的に重複を作ってでも様々な研究領域や課題と連結させていくことを目指していただければと個人的には思っています。
パブコメ:脳科学の長期展望03
バタバタしているうちに答申案の中身に入る前で投稿が止まってしまい、もう明日パブコメの〆切となってしまいました。
時間的にもうたくさん盛り込むことは出来ませんし、また個別専門的な箇所は皆さんから意見が出てくると思いますので、脳科学専門家とは違った意見、脳科学コミュニティー内の批判的な意見とも違うものを意図して、まず大括りなところを順次コメントすることにします。
コメント1:脳科学のポジショニングと方向性
これにについて答申案の見解がはっきりしていないのではないか?
社会からの要求は何か、それに対して何がどこまで分かって何が分からないのか、と言うことをまず位置づけることが必要であろう。
そこを明らかにするために、「1.現代社会における脳科学研究の意義と重要性」や「2.これまでの脳科学研究の主な成果」が書かれている必要があるが、今の中間取りまとめでは、出来た成果とその延長線上のことが主に取り上げられており、本当はこれから何をしなければならないのかということ(研究の目標のようなもの)が実のところよく見えてこないつくりになっている。制度の足らないところはよく書かれているようですが。
何が分かっていないのかと言うことをよりはっきりさせるべきであると言うことです。
コメント2:脳科学帝国主義的書きぶりが散見される
全体を通して「脳科学のための脳科学」という印象を強く受けます。
これでは、本答申のキモである融合的、学際的な脳科学の展開は望めないのではないかと思われます。
具体的には例えば、
「Ⅱ−1.脳科学研究が目指すべき方向性」で「脳を理解することは、生命科学的知見に立脚しながら、心を備えた社会的存在として人間を総合的に理解することである。」というのはいかがなものか。「社会的存在として人間を総合的に理解するためには、生命科学的知見に立脚した脳の理解が欠かせない。」と言う方が良いと思います。
「精神・神経疾患への対処について社会から期待が高まっている。」「多数の研究領域が未だ萌芽的な段階に留まっている。」はその通りだと思います。ただ、その後「自然科学としての基盤が脆弱なまま、その技術が拙速に社会へ導入されることがないよう、・・・」の下りは微妙なところです。社会貢献を見据えて基礎研究をいっそう強化することは当然であると思いますが、一方で、社会への導入については自然科学としての基盤が脆弱かどうかは関係なく、その技術が安全で効果があるかどうか倫理的観点も踏まえて導入すべきものは導入していくべきであると考えます。極端な話、今ある様々な(精神・神経疾患以外も含めた)治療法、治療薬に対して、どれだけの自然科学的な基盤があるのかと言う点は甚だ疑問であると思っています。まあ「拙速」という言葉で担保しているような文章ではありますが。
また別の箇所「(1)先端ライフサイエンスとしての脳科学の発展」では、
脳科学研究から得られた新しい生命現象やその基礎となるメカニズムが他分野の牽引力と主張していますが、果たしてそうか?
どちらかというと、他の分野で得られた新しい生命現象やその基礎となるメカニズムが、ライフサイエンスで解明したい未だ広大なフロンティアが残っている脳科学に、今まさに展開できつつある、と言うことを主張すべきではないか?
「(2)異分野融合による新しい学問領域の創出」では、自然科学の対立概念として人文・社会科学がとらえられてきた、というのも表現に問題があるように思います。「対立概念」ではなく「異なる手法を用いてきた」といったところか?
また、「脳科学の大きな目標の一つは「人間存在の理解」にあり、」なども脳科学のための脳科学推進という意識が見え隠れする。
本来、社会が求めることとして「人間存在の理解」があり、その問いに対してこれまで人文・社会科学で進められてきたものに加えて、脳科学が新たな展開をもたらすことが出来るようになってきた、というロジックが正当であるように思われる。
このような「脳科学のための脳科学推進」では、諮問の内容に対しての答申とはいえない。
「脳科学だけではなぜ社会の要求に応えることが出来ないのか」という視点も必要。答申内容には脳科学がすばらしいという見方ばかりが目に付き、それでは融合的、学際的なものは、よく考えるといらないのではないかとでもいえる書きようになっている。
脳科学の専門家が執筆することの重要性は理解するが、諮問にあるより社会のためという観点での脳科学のポジショニングが出来ていないようなので、この点は答申としてよりブラッシュアップしていただいた方が良いと考えます。
時間的にもうたくさん盛り込むことは出来ませんし、また個別専門的な箇所は皆さんから意見が出てくると思いますので、脳科学専門家とは違った意見、脳科学コミュニティー内の批判的な意見とも違うものを意図して、まず大括りなところを順次コメントすることにします。
コメント1:脳科学のポジショニングと方向性
これにについて答申案の見解がはっきりしていないのではないか?
社会からの要求は何か、それに対して何がどこまで分かって何が分からないのか、と言うことをまず位置づけることが必要であろう。
そこを明らかにするために、「1.現代社会における脳科学研究の意義と重要性」や「2.これまでの脳科学研究の主な成果」が書かれている必要があるが、今の中間取りまとめでは、出来た成果とその延長線上のことが主に取り上げられており、本当はこれから何をしなければならないのかということ(研究の目標のようなもの)が実のところよく見えてこないつくりになっている。制度の足らないところはよく書かれているようですが。
何が分かっていないのかと言うことをよりはっきりさせるべきであると言うことです。
コメント2:脳科学帝国主義的書きぶりが散見される
全体を通して「脳科学のための脳科学」という印象を強く受けます。
これでは、本答申のキモである融合的、学際的な脳科学の展開は望めないのではないかと思われます。
具体的には例えば、
「Ⅱ−1.脳科学研究が目指すべき方向性」で「脳を理解することは、生命科学的知見に立脚しながら、心を備えた社会的存在として人間を総合的に理解することである。」というのはいかがなものか。「社会的存在として人間を総合的に理解するためには、生命科学的知見に立脚した脳の理解が欠かせない。」と言う方が良いと思います。
「精神・神経疾患への対処について社会から期待が高まっている。」「多数の研究領域が未だ萌芽的な段階に留まっている。」はその通りだと思います。ただ、その後「自然科学としての基盤が脆弱なまま、その技術が拙速に社会へ導入されることがないよう、・・・」の下りは微妙なところです。社会貢献を見据えて基礎研究をいっそう強化することは当然であると思いますが、一方で、社会への導入については自然科学としての基盤が脆弱かどうかは関係なく、その技術が安全で効果があるかどうか倫理的観点も踏まえて導入すべきものは導入していくべきであると考えます。極端な話、今ある様々な(精神・神経疾患以外も含めた)治療法、治療薬に対して、どれだけの自然科学的な基盤があるのかと言う点は甚だ疑問であると思っています。まあ「拙速」という言葉で担保しているような文章ではありますが。
また別の箇所「(1)先端ライフサイエンスとしての脳科学の発展」では、
脳科学研究から得られた新しい生命現象やその基礎となるメカニズムが他分野の牽引力と主張していますが、果たしてそうか?
どちらかというと、他の分野で得られた新しい生命現象やその基礎となるメカニズムが、ライフサイエンスで解明したい未だ広大なフロンティアが残っている脳科学に、今まさに展開できつつある、と言うことを主張すべきではないか?
「(2)異分野融合による新しい学問領域の創出」では、自然科学の対立概念として人文・社会科学がとらえられてきた、というのも表現に問題があるように思います。「対立概念」ではなく「異なる手法を用いてきた」といったところか?
また、「脳科学の大きな目標の一つは「人間存在の理解」にあり、」なども脳科学のための脳科学推進という意識が見え隠れする。
本来、社会が求めることとして「人間存在の理解」があり、その問いに対してこれまで人文・社会科学で進められてきたものに加えて、脳科学が新たな展開をもたらすことが出来るようになってきた、というロジックが正当であるように思われる。
このような「脳科学のための脳科学推進」では、諮問の内容に対しての答申とはいえない。
「脳科学だけではなぜ社会の要求に応えることが出来ないのか」という視点も必要。答申内容には脳科学がすばらしいという見方ばかりが目に付き、それでは融合的、学際的なものは、よく考えるといらないのではないかとでもいえる書きようになっている。
脳科学の専門家が執筆することの重要性は理解するが、諮問にあるより社会のためという観点での脳科学のポジショニングが出来ていないようなので、この点は答申としてよりブラッシュアップしていただいた方が良いと考えます。
2009年2月20日金曜日
パブコメ:脳科学の長期展望02
「長期的展望に立つ脳科学の基本的構想及び推進方策について」(第1次答申案(中間取りまとめ))とは何か?
この文書は、脳科学の発展性と社会的な重要性を念頭に、今後長期的な研究の推進をどのようにするべきかを問われた文部科学大臣からの諮問に対する答申の途中の案と言うことになります。
この答申案のとりまとめは、科学技術・学術審議会によるものとなっていますが、実際に内容を検討しているのは、その下に設置された脳科学委員会及びその調査検討作業部会が行っています。
ここでの協議内容につては、HP上に議事録や資料が提示されていて、基本的にオープンになっています。
また、議事録だけでは分からない雰囲気のようなものは、サイエンスポータルのレポートとしていくつかの会の内容が書かれているので、参考になるかと思います。
まず始めに、この答申案について理解しておくべきなのは、まず文部科学大臣の諮問があるという点だと思います。
今後脳科学研究を進めるべきかどうかという点はすでに済んでいる話であって、諮問の理由として「脳科学の研究開発を重点的に進め、成果を社会に還元する必要がある。」と明確に説明されている。
ただし、そこに明記されているように、長期的に見て「成果を社会に還元する必要がある」とも指摘されています。
ここで期待されている成果は、健康に関わる問題解決などもありますが、一方で、「真に人間を理解するための科学的基盤を与え、心の理解や人類社会の調和と発展につながる科学的価値の高い成果」も期待されています。
そういう理解の上に立って、では国としてどのように取り組むべきかを専門家が議論して答えなさい、というわけです。
社会に還元することと言うと、ともすれば短期的な応用面での成果が取りだたされかねないが、脳科学を考えるときに、そのような短期の成果とともに長期的な学術研究の重要性が当初より意識されているので、脳科学委員会の設置に当たって「脳科学研究を戦略的に推進するための体制整備の在り方のほか、人文・社会科学との融合、さらには大学等における研究体制等を含めた長期的展望に立つ脳科学研究の基本的構想及び推進方策の検討を行うことから、研究計画・評価分科会と学術分科会学術研究推進部会との合同設置とする。」という、特異な形を取っていることも、この答申案を考える上で理解しておいた方が良いと思います。
従って、今後更に議論していく上では、トップダウンの戦略的な視点と学術研究のボトムアップの視点、短期から長期的な視野をバランスよく捉えることが関係者に求められていて、ともすると単純に「基礎研究は重要」と言い放ってしまうだけになりがちであるが、全体として脳科学を大きく進めていこう、新しく変えていこうという流れを遮らない議論が出来てほしいと思います。
まず前提条件の話だけで長くなりましたが、次は中身に入っていく予定です。
この文書は、脳科学の発展性と社会的な重要性を念頭に、今後長期的な研究の推進をどのようにするべきかを問われた文部科学大臣からの諮問に対する答申の途中の案と言うことになります。
この答申案のとりまとめは、科学技術・学術審議会によるものとなっていますが、実際に内容を検討しているのは、その下に設置された脳科学委員会及びその調査検討作業部会が行っています。
ここでの協議内容につては、HP上に議事録や資料が提示されていて、基本的にオープンになっています。
また、議事録だけでは分からない雰囲気のようなものは、サイエンスポータルのレポートとしていくつかの会の内容が書かれているので、参考になるかと思います。
まず始めに、この答申案について理解しておくべきなのは、まず文部科学大臣の諮問があるという点だと思います。
今後脳科学研究を進めるべきかどうかという点はすでに済んでいる話であって、諮問の理由として「脳科学の研究開発を重点的に進め、成果を社会に還元する必要がある。」と明確に説明されている。
ただし、そこに明記されているように、長期的に見て「成果を社会に還元する必要がある」とも指摘されています。
ここで期待されている成果は、健康に関わる問題解決などもありますが、一方で、「真に人間を理解するための科学的基盤を与え、心の理解や人類社会の調和と発展につながる科学的価値の高い成果」も期待されています。
そういう理解の上に立って、では国としてどのように取り組むべきかを専門家が議論して答えなさい、というわけです。
社会に還元することと言うと、ともすれば短期的な応用面での成果が取りだたされかねないが、脳科学を考えるときに、そのような短期の成果とともに長期的な学術研究の重要性が当初より意識されているので、脳科学委員会の設置に当たって「脳科学研究を戦略的に推進するための体制整備の在り方のほか、人文・社会科学との融合、さらには大学等における研究体制等を含めた長期的展望に立つ脳科学研究の基本的構想及び推進方策の検討を行うことから、研究計画・評価分科会と学術分科会学術研究推進部会との合同設置とする。」という、特異な形を取っていることも、この答申案を考える上で理解しておいた方が良いと思います。
従って、今後更に議論していく上では、トップダウンの戦略的な視点と学術研究のボトムアップの視点、短期から長期的な視野をバランスよく捉えることが関係者に求められていて、ともすると単純に「基礎研究は重要」と言い放ってしまうだけになりがちであるが、全体として脳科学を大きく進めていこう、新しく変えていこうという流れを遮らない議論が出来てほしいと思います。
まず前提条件の話だけで長くなりましたが、次は中身に入っていく予定です。
2009年2月19日木曜日
パブコメ:脳科学の長期展望01
Googleニュースから脳科学関連のものを表示する欄を作りました。
早速、ヒットしていたのが、現在パブコメ募集中の「長期的展望に立つ脳科学の基本的構想及び推進方策について」(第1次答申案(中間取りまとめ))でした。
科学技術・学術審議会から出されたこの案は、いろいろな意味で重要なので、関係する多くの方が、賛成やご批判いずれでも構わないですが、建設的なコメントが出されてより良いものになればと思います。
この答申は、主に科学技術・学術審議会の下に設置された脳科学委員会で議論されてきたもので、作業部会も含めてずいぶん傍聴させていただきました。
その前の局長懇談会もほとんど傍聴させていただいたので、全体の流れは理解しているつもりですが、かなりびっしりと書かれているので、今週末はゆっくり読み返して考えたいと思っています。
ちなみにパブコメの〆切は一週間後です。
それまで当面この答申案について、自分の整理のために、ここでコメントを綴っていくことにします。と言ってもまだこのブログはほとんど誰も見ていないようなので、独り言をつぶやくことにします。
早速、ヒットしていたのが、現在パブコメ募集中の「長期的展望に立つ脳科学の基本的構想及び推進方策について」(第1次答申案(中間取りまとめ))でした。
科学技術・学術審議会から出されたこの案は、いろいろな意味で重要なので、関係する多くの方が、賛成やご批判いずれでも構わないですが、建設的なコメントが出されてより良いものになればと思います。
この答申は、主に科学技術・学術審議会の下に設置された脳科学委員会で議論されてきたもので、作業部会も含めてずいぶん傍聴させていただきました。
その前の局長懇談会もほとんど傍聴させていただいたので、全体の流れは理解しているつもりですが、かなりびっしりと書かれているので、今週末はゆっくり読み返して考えたいと思っています。
ちなみにパブコメの〆切は一週間後です。
それまで当面この答申案について、自分の整理のために、ここでコメントを綴っていくことにします。と言ってもまだこのブログはほとんど誰も見ていないようなので、独り言をつぶやくことにします。
2009年2月18日水曜日
「ネット上で気になったコンテンツ」欄を作りました。
Googleリーダーで設定しているネット上のコンテンツで、気になったものを載せる欄を作りました。
何を載せるかは、まったくそのときの気分ですが、論文とかはそれぞれの専門の方がチェックしていると思うので、ここにはあまり載せない予定です。
また、自分でちゃんと中身を見ているとも限りません。
これをネタに何かコメントをいただけたら、とも思っています。
何を載せるかは、まったくそのときの気分ですが、論文とかはそれぞれの専門の方がチェックしていると思うので、ここにはあまり載せない予定です。
また、自分でちゃんと中身を見ているとも限りません。
これをネタに何かコメントをいただけたら、とも思っています。
2009年2月17日火曜日
まずは自己紹介から。
このブログでは、研究のトピックスから科学技術政策といったことまでの研究に関わる諸々のことを取り上げる予定です。
特に、脳神経科学が中心となるかと思いますが、それ以外も幅広く取り上げていきたいと思っています。
といって何から始めればよいかよく分かりませんので、まずは自己紹介から。
私のキャリアは割と変わっていて、また、かなりいろいろなところを移ってきました。
元々大学では、生物学科で研究室は分子生理学教室。
もう25年前になりますが、細胞内の酵素活性のキネティックに手を出して、今から思えばシステム生物学的なところでもあったように思えます。
昔の酵素のキネティックス研究と昨今のシステム生物学は似たところがあり、同じような危うさも持っていると常々思っています。
これはまた、そのうち話題にするでしょう。
と、このペースでは話は終わらないので、簡単に略歴(遍歴)を書いておきます。
1986年大阪大学理学部生物学科卒
91年同理学研究科生理学専攻修了(理学博士)
91年三菱化学生命科学研究所特別研究員
93年早稲田大学人間総 合研究センター助手
97年長崎大学薬学部助教授
04年科学技術振興機構研究開発戦略センターフェロー
08年自然科学研究機構生理学研究所特任教授
博士課程の途中から2年間は三菱化学生命科学研究所(もうじき無くなってしまいます)で特別研究生として実際には研究を行っていました。
国立大学から、株式会社(一応)、私立大学、国立大学、独法(プログラムオフィサー)、大学共同利用機関法人と移ってきたことになります。
一番大きな転換期は、アカデミアから科学技術政策の企画・立案の世界に入ってきたことでしょう。
こういったキャリアですので、多少は人とも違ったコメントを残せるのではと思っています。
これから、すこしづつそのあたりを書いていきますので、よろしくお願いします。
特に、脳神経科学が中心となるかと思いますが、それ以外も幅広く取り上げていきたいと思っています。
といって何から始めればよいかよく分かりませんので、まずは自己紹介から。
私のキャリアは割と変わっていて、また、かなりいろいろなところを移ってきました。
元々大学では、生物学科で研究室は分子生理学教室。
もう25年前になりますが、細胞内の酵素活性のキネティックに手を出して、今から思えばシステム生物学的なところでもあったように思えます。
昔の酵素のキネティックス研究と昨今のシステム生物学は似たところがあり、同じような危うさも持っていると常々思っています。
これはまた、そのうち話題にするでしょう。
と、このペースでは話は終わらないので、簡単に略歴(遍歴)を書いておきます。
1986年大阪大学理学部生物学科卒
91年同理学研究科生理学専攻修了(理学博士)
91年三菱化学生命科学研究所特別研究員
93年早稲田大学人間総 合研究センター助手
97年長崎大学薬学部助教授
04年科学技術振興機構研究開発戦略センターフェロー
08年自然科学研究機構生理学研究所特任教授
博士課程の途中から2年間は三菱化学生命科学研究所(もうじき無くなってしまいます)で特別研究生として実際には研究を行っていました。
国立大学から、株式会社(一応)、私立大学、国立大学、独法(プログラムオフィサー)、大学共同利用機関法人と移ってきたことになります。
一番大きな転換期は、アカデミアから科学技術政策の企画・立案の世界に入ってきたことでしょう。
こういったキャリアですので、多少は人とも違ったコメントを残せるのではと思っています。
これから、すこしづつそのあたりを書いていきますので、よろしくお願いします。
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